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第1章  ダー ス ト ン 星 

≪8≫ 胸番号の秘密 快適な20階建てマンションの最上階。今夜はぼくの手術をしてくれた医師ブルトン氏の招待を受けている。ぼくがこの国のことを理解できるようにと、ウラノス科学院長が配慮してくれたのだそうだ。

テーブルの上には、肉と野菜の料理。グラスには、ワインに似た液体も注がれている。電燈のようなものはいっさいないが、天井や四方のカベそのものが発光していた。40畳ほどの部屋には、戸棚もテレビも置いていない。ただ窓際の角に小さな机があって、その上に真っ赤な大輪のダリアのような花が活けてあった。素っ気ない感じだが、光線の柔らかさが心地よく落ち着く。マーヤもぼくの隣に座っているが、彼女は飲んだり食べたりはしない。

ブルトン氏は病院で見た白衣姿とは違って、柔和な紳士。茶系のガウンに光るプレートの数字は「48」だから、いま52歳ということになる。隣に座った奥さんを紹介してくれた。ぽっちゃり系の美人で、黄色のガウン。赤いプレートの数字は「52」だ。乾杯のあと、ブルトン氏がゆっくりした口調で話し始めた。

「ウラノス院長とお会いになって、どうでしたか。立派な人物だったでしょう」
――ええ、300年前の祖先がチャイコ星から移住してきたときの話。200年前の国民投票で全国民の寿命を100歳と決めたこと。ほんとうに驚くと同時に、深い感銘を受けました。

「私たちは幼いころから家でもその話を聞かされ、学校でも歴史として習います。妻や子どもたちを宇宙船に乗せるため、チャイコ星に残った夫や親の言動など。この国の人々は、決して忘れません。その証しとして、みんなが胸にプレートを付けているのです。これも200年前に、当時の賢人会が決めました」

――でも、なんで年齢ではなく、100から年齢を引いた数字になっているのでしょうか。
「まあ、食べながらお話しましょう。やはり昔の賢人会が、そう決めたのです。理由はいろいろありますが、寿命はだれもが100歳。残りの人生を大切にするため、あと何年生きるのかを常に意識するようにしたのだと言われています。人生設計を立てるのにも、とても役立ちますね」

――100歳で死ぬのはイヤだという人は、いないのですか。
そう尋ねたとき、目を大きく開いた夫人が会話に割り込んできた。

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 第1章  ダ ー ス ト ン 星 

≪7≫ 驚くべき寿命100歳制度 = 帰りの車のなかで、ぼくは目を閉じてウラノス博士の話を反芻していた。隣のマーヤも黙りこくっている。そっと腕をつつくと「私も初めてあんな話をお聞きしました」と言って、うなだれてしまった。ロボットなのに、人間的な感情を持っているのかしら。

博士は最後に、ダーストンの建国にまつわる話をしてくれた。声が低くなり、顔つきも悲しげになったのが印象に残っている。そして、その内容は実にショッキングなものだった。博士の長い物語を要約すると・・・。

博士たちの祖先が住んでいたチャイコ星では300年前、放射性物質が拡散する事故が発生した。そのころまでに科学技術は非常に発達していたので、人々は国ごとに大型宇宙船をいくつも建造。それぞれ遠くの星を目指して脱出し始めた。博士たちの祖先も続々とこのダーストン星に移住してきたが、100年近くかかっても運べた人数は100万人足らず。残る900万人はチャイコ星とともに滅亡した。

ダーストン星に到着できた人は、第1級の知識や技術を持った人たち。しかも若者が中心だった。彼らは力を合わせて、新しい星での国造りに励む。まず労働力を確保するため、人間と同じように考え働けるロボットを量産した。そしてロボットや機械を動かすための電源エネルギーの確保。さらに高度な医療技術の開発にも、全力をあげたのだった。

その結果、100年ぐらいの間に素晴らしい国を建設することができた。ところが、そこで起きたのが人口問題。完璧な医療技術のおかげで人が死ななくなったために、人口は1000万人に接近するほど急増してしまった。ダーストン星は地球の3分の2ほどの大きさだが、ほとんど全部が海なのだ。陸地は面積が北海道と九州を合わせたぐらいの、この島だけ。いくらロボットたちが農耕に精を出しても、1000万人以上の人間は養い切れない。

チャイコ星で暮らしていた祖先たちは、子孫を守るために自らが犠牲になった。その崇高な精神を受け継いで、われわれもなんとかしなければいけない。そう考えた200年前の賢人会は、常識では思いつかない決断に踏み切った。人々の寿命をすべて100歳にするという提案である。この提案は直ちに国民投票にかけられた。結果は51%の賛成で可決された。

「この国の憲法第1条を見てごらん。そこには『ダーストン国民は平和で満ち足りた生活を保障される。すべての国民の寿命を100歳と定める』と書いてある」

ウラノス博士はこう言って、長い物語を終えた。       

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 第1章  ダ ー ス ト ン 星 

≪6≫ ノアの方舟 ウラノス博士の話は続いた。「実は、われわれの祖先も300年ほど前に、同じような経験をしたんじゃ。君の星、地球は海底のメタン・ハイドレードを掘り過ぎて、メタン・ガスの噴出を止められなくなったことが原因だったね」

よく知っているなあ。UFOで集めた情報なのか。それとも、ぼくの頭脳から記憶を抽出したんだろうか。もしそうなら了解も得ないで、他人の記憶を勝手に取り出すなどとは、けしからん話だ。だが命を助けられたのだから、文句も言えないか。

「われわれの祖先は、ここから70光年離れたチャイコ星からやってきた。そのチャイコ星では300年ほど前、大変なことが起こったんじゃ。原子力発電で使った放射性廃棄物を、各国は共同で海底深くに埋めて処理していたが、大地震で海底のマグマがこの廃棄物処理場を飲み込んでしまった。その結果、いくつかの活火山が放射性物質を噴き出すようになり、人間は住めなくなってしまったんじゃ。

そこで先祖たちは超大型の宇宙船を大量に建造し、国ごとにいくつかの星に分散移住した。地球人の言う“ノアの方舟”じゃね。こうして、われわれの祖先が、この星に到達したというわけだ。そこのところを、きちんと知っておいてほしい」

われわれ地球人から見れば、ウラノス博士たちは宇宙人ということになる。でも“ノアの方舟”まで知っているし、外見は地球の人間とあまり変わりはない。不思議だ。

地球人がこのプロキシマb星を発見したのは、2016年のこと。観測機器の性能が飛躍的に向上したため、ほかにも数多くの惑星が発見された。しかし地球との距離は、近いものでも39光年。プロキシマb星だけが、4.2光年で格段に近かった。ただし、この星には致命的な欠陥があると、科学者たちは指摘していた。それは恒星であるプロキシマ・ケンタウリが暗く、プロキシマb星は人間が住むには温度が低すぎると考えられたのだった。

それでも国連が調整して、主要国は5機の宇宙船で5つの惑星を探査することになり、日本はプロキシマb星を担当することになった。そして、ぼくがいま、ここにいる。そこで、明るい太陽のような恒星ケンタウリを指さして。

――この恒星は、もっと暗いと思っていたんですが。
「あはは、地球人がやってくると困るから、宇宙空間に特殊なバリアを張って、地球から見ると暗い星に見えるようにしたんじゃよ。君の宇宙船は、それに衝突した。宇宙にバリアを張る技術は、やっと30年前に完成させたんだよ」

ウラノス博士は豪快に笑ってみせた。

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第1章  ダ ー ス ト ン 星

≪5≫ UFOの正体 そのウラノス博士は、大きな声をあげながら両手を前に突き出した。そう、この星では両手を重ね合わすことが挨拶だと、車のなかでマーヤに教わったばり。ぼくも慌てて両手を差し伸べる。
「元気になったようじゃね。結構、結構。まあ、そこに座ってくれたまえ」

白髪で丸顔、広いおでこに鋭い眼。でも声は柔らかい。小太りの身体を黄色いローブのような衣服で覆っていた。まるでギリシャ時代の典型的な賢者に見える。左胸には青いプレート。数字は「12」だ。えっ、ということは88歳か。とても、そんな歳には見えない。顔や手にも皺がなく、つやつやしている。

ウラノス博士が低い声で、ゆっくりと話し始めた。隣に座ったマーヤが、即座に通訳する。
「われわれは、地球のことをかなり知っておるよ。だいぶ以前から、地球の周辺にUFOを飛ばして情報収集はしているんだ。ふだんは地球人の目に触れることはないんだが、緊急連絡のときに出力を上げると船体がどうしても光ってしまう。それで地球人に見られることもあるんじゃ」

なるほど、UFOというのはこの国のスパイ宇宙船だったのか。
「貴方の記憶も分析させてもらったよ。メタン・ガスが成層圏に滞留して、気温が低下したんだね」
――はい。最初は温室効果で気温が上昇しましたが、その後は太陽の光が届きにくくなり、赤道の真下でも雪が降るようになったのです。
「それで食料に困り、人間が大量に脱出できる別の星を探し始めた?」

――その通りです。5機の高速宇宙船を造り、見当を付けた5つの星に向かって、各国の飛行士が飛び立ったのです。私はケンタウルス座の方向にある4.2光年離れた恒星プロキシマ・ケンタウリの惑星プロキシマb星に向かいました。
「地球人がプロキシマ・ケンタウリと呼んだ恒星は、われわれの言うべートンじゃよ。ほら、あそこに輝いておる。だから君は計画どおり、この星に到着したわけだ。宇宙船は壊れてしまったがね」

そうだ。宇宙船が壊れてしまったから、ぼくはもう地球に帰れない。でも命を助けてもらったんだから、お礼ぐらいは言っておかないと。
――言い遅れましたが、救助していただいて有難うございました。
「いや、お礼には及ばんよ。困ったときは、お互いさまだ。でも君にはやってもらいたいことがあるんじゃ。いずれ、だんだんと説明するが。とにかくダーストンのことをよく勉強してほしい」

博士の目が妖しくキラリと光った。

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第1章  ダ ー ス ト ン 星

≪4≫ 胸番号の意味 卵型の小型車に、マーヤと乗っている。病院の玄関から幹線道路に出て、8車線の高速道路へ。すべて自動運転だ。だいいち、この車には運転席がない。きょうは科学院長に会いに行くのだ。高速道路では300キロぐらいのスピードで走った。だから100キロほど離れた隣町の科学院に、アッという間に到着する。それでも、マーヤにいろいろ質問する時間はあった。

まずはきのう受けた手術で、ぼくの左胸に付けられたプレートのこと。病室に戻って鏡を見ると、ガウンの上に緑色のプレートがくっきり。番号は「66」だった。驚いたのはガウンを脱いでも下着のシャツに同じプレートが。下着を脱ぐと、こんどは肌の上にプレートが現われたではないか。

――マーヤ、このプレートはなんなのだ。ぼくの「66」という番号は、何を意味しているんだ?
マーヤは平然とした口調で、こう答えた。
「数字はその人の年齢よ。男の人は青色。女の人は赤。私たちロボットは、みんな黄色です。貴方のような異星人は緑色。お判りですか」

――では、ぼくは66歳になったってこと?
「いいえ。この星では、みんな100から引いた数字で年齢を表します。だから、いま「71」の私も、もうすぐ「「70」に変わります。貴方は34歳。私より5歳上のお兄さんということになりますわ。なぜ、そんな面倒な数字を使うのかは、もうすぐお会いになるウラノス博士に聞いてください」

――ふーん、判った。で、そのウラノス博士は、どんな人?
「この国の重要事項を決める機関が賢人会議です。6人で構成されていますが、ウラノス博士はそのうちの1人です。科学院の院長さんを兼任し、科学や技術の最高責任者。とても博識で判断も間違わないので、国民の間でも人気が高い人ですわ。私にはよく判りませんが、賢人会議でも議長のような役を果たしているのではないでしょうか」

――でも、そんなに偉い人が、なぜ僕と会ってくれるのだろう。
「それも私には判りません。ただロボット仲間から聞いた情報によると、貴方の宇宙船が事故を起こしたとき、素早く宇宙救援隊に出動を命じたのはウラノス博士だということです。昨夜、博士から病院に連絡があって、きょう私がお連れすることになりました。さあ、もう到着します」

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