FC2ブログ

Latest Entries

第7章 終 局

≪65≫ かぐや姫 = その年の秋。夜半の満月を見上げた人は、びっくり仰天した。明るい月面から地上に一条の光が射し込み、その光に沿って和服姿の女性がゆっくりと登って行く。奇妙なことに女性は大きな黒い荷物を両手で抱えており、3-4分もすると見えなくなってしまった。

この天体ショーはSNSですぐに拡散。あくる日の新聞、テレビでも大きく報道された。見出しは「天に昇る美女」「かぐや姫の現代版」・・・。だが少なからぬ人がカメラやスマホで写真を撮ったのに、再生してみると女性の姿は消えて一条の光だけが映っていた。

ぼくが死んだあと、マーヤを地球で暮らさせるわけにはいかない。だから2人でダーストン国へ戻ることを、すぐに決断した。こうして、ぼくたちはいま、UFOのなかで宇宙船の出発準備をしている。

――マーヤ、ぼくはまた宇宙船のなかで4年以上も眠らなければならない。起きたとき、ダーストン国はどんなになっているのだろうか。
「私は起きていますから、安心して眠ってください。ダーストン国は何も変わっていないと思いますよ。でもブルトン院長もメンデール教授もショッピー館長も、知っている人たちは、もうみんな亡くなってしまいました」

――そう、ぼくたちは地球に40年もいたんだ。ダーストン星の時間で言えば80年になるはずだ。あの当時20歳以上の人は、もういない。でも彼らは100歳の命を全うしたと考えて、満足して死んだに違いない。寿命なんて、その人の考え方しだいで長くも短くもなるんだね。

宇宙船が発進し、ぼくが眠りについたころ、地上ではJRリニアの関係者と警察が、山梨県のロボット生産工場を捜索しようとしていた。近所の住民から「工場は操業を止め、誰もいなくなったようだ」という通報があったためである。

警察官らが工場に入ってみると、機械などは跡形もなくなり、広い床の真ん中に小さな机がポツンと置かれていた。机の上には緑色と黄色のパソコンが2台。

まず黄色いパソコンの蓋を開けると、画面にメッセージが。
≪ダーストニウムの製造方法が詳しく書いてあります。海底から原料を取り出すまで5年はかかるでしょう。でも、その後は“神の粉”を自給できるようになるでしょう。頑張ってください。二階堂摩耶≫

次に緑色のパソコンを開けると。
≪ぼくの“私の履歴書”です。ただし2300年1月1日までは絶対に開けません。開いたときに「経済のない世界」が実現しているか、興味津々です。二階堂純一≫   

                                    = 完 =


         Please Click Here ⇒

第7章 終 局

≪64≫ 2100年 = 地球は22世紀を迎えた。早いもので、ぼくが地球に帰還してから、もう39年の歳月が流れたことになる。マーヤのおかげもあって元気に暮らしているが、御年なんと80歳だ。それに気になることがある。

それは左胸のプレート。地球では着衣に隠れて見えないようになったが、裸になれば緑色の≪14≫という数字がくっきり。マーヤの黄色の数字は≪19≫だ。どうやらダーストン国の滞在期間と帰りの宇宙船に乗っていた年月が、ダーストン星の時間で計測されたらしい。ダーストンの1年は168日だから、通算すると6年ほど長くなってしまうわけだ。

このプレートの意味するところが地球上でも効力を発揮するとすれば、ぼくの寿命はあと14年ということになる。ダーストン星を訪れ、ロボットを妻に迎えるという数奇な運命を味わってきただけに、もう思い残すことはほとんどない。しかし“終活”については、そろそろ考えておかねばなるまい。

日本経済は見事に立ち直ったが、政治の世界は相変わらずドロドロしたままだ。カネ余りの恩恵を受けて一握りの大金持ちが誕生する一方で、大多数の国民は苦しい生活を強いられている。この貧富の差が、政治への不満となって現われる傾向は世界共通。だから誰が政権の座についても、長持ちはしない。

そんなとき、肝を冷やす事件が起こった。女性だけで結成した「女の党」が野党第1党に躍り出ると、余勢を駆って政権を獲るため新しい党首を探している。その有力候補に、なんと『二階堂摩耶』の名が挙がっていると、週刊誌が大々的に報じたのだ。

続いて「神の粉を発明して、日本経済を立て直した救世主」とか「摩耶さんが出馬すれば、衆院の過半数は間違いない」とか。さらには「次は摩耶総理。男性の期待も大きい」などという記事も飛び出した。

これは困ったことになった。そんなことになれば、マーヤの生い立ちや学歴、家族関係などが徹底的に洗われるだろう。いったい、どう対処したらいいんだろう。さすがのマーヤも、最近は外出を控えるようになってしまった。

2人で考えあぐねていたとき、ぼくの心のなかには別の心配事が芽生えてきた。ぼくがあと14年後に死んだら、マーヤはひとりで生きて行かねばならない。この地球で、彼女はロボットであることをひた隠しに隠して生きて行かねばならないのだ。そのことも考えてやらねば、ぼくは安心して死ねない。

そして突然のひらめき。決断したら、早く実行しなければならない。

                          (続きは来週日曜日)
        

         Please Click Here ⇒


    

第7章 終 局

≪63≫ 記録 = 近ごろは朝のうち、パソコンの前に座っていることが多くなった。ダーストン国では数多くの人に会い、いろいろな施設を見学した。その都度メモをしたが、そのノートは帰りの宇宙船に持ち込ませてくれなかった。地球人にダーストン星のことを知られたくなかったからだろう。

だが、あの5年間の経験は強烈だっただけに、ぼくはメモがなくても全部覚えている。ただ歳をとれば、記憶が薄れるかもしれない。そこでパソコンに記録しておこうと思い立った次第。もちろんウラノス博士との約束があるから、いまは公開できない。200年後の子孫が読んで参考にしてくれたらいいと考えてのことだ。

200年後の地球人が、ダーストン並みの医療技術を手に入れているかどうか。ぼくの最大の関心事は、この一点にある。ぼくはやや懐疑的だが、マーヤはとても楽観的だ。

「ダーストン人だって、200年前には完璧な技術を持っていませんでした。逆にいまから200年前の地球は、どうでしたか。200年という歳月は、世の中を想像できないほど変えるに違いありません」

いまは2094年だから、200年前は1894年。日本は明治27年、日清戦争が勃発した年だ。すでに鉄道や自動車は実用化されていたが、その当時の人で現在の宇宙船やリニア・モーターカー、それにロボットやiPSによる難病の治療、インターネット空間などを想像した人は、誰もいなかったに相違ない。

こう考えてくると、マーヤの言い分が当たっているような気もする。しかし真実は200年後の子孫にしか判らない。このパソコンを開いた子孫たちがどう感じるのか。

仮に200年後の地球人がダーストン級の医療技術を手に入れているとすれば、人間並みの能力を持ったロボットが人間の代わりに働いているだろう。その結果、地球からもおカネが姿を消し、経済のない世界が実現する可能性は大きい。

だが、ぼくが見てきた経済のないダーストン国は、なんとも活気のない世界だった。たしかに貧富の差はないし、働きたくない人は働かずに済む。犯罪もなく、病気の心配もない。しかし競争も刺激もない社会だ。うっかりしていると足を掬われる、金儲けにうつつを抜かす、事故や病気をいつも心配している。この現実社会とあのユートピアと、どちらが優れているのだろう。これも200年後の人類に、聞いてみたい点である。

                              (続きは来週日曜日)


         Please Click Here ⇒


第7章 終 局

≪62≫ 日本 = 2090年ごろになると、日本経済は完全に再生した。輸出が増加し、国内の消費も順調に伸び続けている。企業の利益は拡大し、株価は上昇した。なによりも街を歩く人が元気を取り戻し、世の中がひところより格段に明るくなっている。

ぼくが地球を飛び出したのは、ちょうど50年前。あのころが、いちばんひどかった。異常な寒冷化が収まったあとも日本は回復が遅く、世界でも二流国に没落してしまう。エネルギー価格の暴騰と人手不足のために、経済が成長力を失ってしまったからだ。

その救世主となったのが、わがダーストニウム発電路床である。この普及で電力自給率は70%を超え、原油の輸入量は5分の1に激減した。電力料金も値下がりしたため企業のコストが大幅に下がり、輸出競争力は急速に回復した。家庭も電力やガス料金が値下がりし、コメやパンなどの主食はタダ同然の価格で入手できるようになった。人々はおカネを他の消費に振り向けられるようになっている。

ガードマン型ロボットと農水産用のロボットを大量生産した結果、その分野での人手がほとんど不要になった。その人たちを建設や介護の仕事に誘導したので、全体としての人手不足はかなり解消した。こうして日本経済は、再び成長力を取り戻した。

日本に対する世界の信頼も、驚くほど向上した。なにしろ“神の粉”を、安価で供給してくれる。中東の産油国でさえも、太陽光発電を基盤として国家の発展計画を作成するようになった。国連の場などでも、日本の発言力は見違えるほど強くなった。

そんな状況を眺めながら、ぼくは山梨の工場敷地内に閉じ籠っている。外へ出て人に会うと、なんだかウソ発見器にかけられているようで苦しくなってしまうからだ。ガードマン型ロボットと番犬に守られて、ここには戦車であろうがドローンであろうが入ってはこられない。

マーヤの方はときどき出かけるが、マスコミに聞かれると「私は専業主婦。主人のやっていることは全く知りません」で切り抜けているらしい。彼女はどこから見ても、おおらかで楽しそうな中年の主婦に見える。

ひまなので、最近は過去の出来事をパソコンに入れ始めた。もちろん公表は出来ないが、こうしておけば200年後の子孫がみて参考になるかもしれないと考えたからである。

                          (続きは来週日曜日)



         Please Click Here ⇒

第7章 終 局

≪61≫ 世界 = けさのテレビ・ニュースは、中東で起きたテロと報復爆撃の様子を生々しく伝えていた。地球の異常な寒冷化で人類の存続が危ぶまれたとき、世界各国は一致して対応策の構築に努力した。だが脅威が去ると、状況は元へ後戻り。宗教的な色彩の強い地域的な戦争が、しばしば勃発。米中ロの3大強国は残り少なくなった資源の取り合いに狂奔。みな自国第一主義に走って、リーダーの風格を有する国は全く姿を消した。

――ねえ、マーヤ。地球人はほんとに進歩しないね。こんなテレビ画面をみていると、ぼくはダーストン国が羨ましくなるよ。たしかウラノス博士がUFOの秘密を話してくれたとき「地球人はまだ野蛮で、戦争をしている」と言ったね。だからダーストン星にバリアを張って、暗くて冷たい星に見せていると説明してくれたときだ。
マーヤは無言だった。地球人の悪口は言いたくないのだろう。

ぼくに言わせれば、いまの地球は経済の面でも悪い方向に進んでいる。もう何十年も前から、日本を含む先進諸国は景気を維持するために、膨大なおカネを放出し続けている。その結果、株式や商品あるいは為替や仮想通貨などに大量の投機マネーが集中。いわゆるマネー経済が、急速に拡大した。

このマネー経済分野で儲けるのは、ほんの一握りの人たちだ。大多数の国民は汗水流して働いても、なかなか生活がよくならない。このため貧富の差は拡大するばかり。その不満は政治に向けられる。ところが選挙になれば、これら庶民の票がなければ勝てない。そこで政府・与党は、景気対策とか福祉対策でまたカネをばらまく。

すると投機資金がさらに増えて、働かない人たちがまた儲かる。庶民の不満がさらに講じると、政治家はポピュリズムに走る。こんな悪循環が止まらなくなっていると思う。

月日の流れは、宇宙船のように速い。気が付いてみると、22世紀も間もなくだ。ぼくが地球を飛び立ってから、もう50年近くも経ってしまった。こんな調子で、200年後の地球はどんな星になっているのか。思わずため息が出る。

そんなぼくの気持ちを察知したマーヤが、上を向いて言った。
「ダーストン国も200年前は、大した技術を持っていませんでした。地球人も頑張るでしょう。きっと、よくなりますよ。私たちも前を向いて、物事を明るく見ましょうよ」

                          (続きは来週日曜日)


         Please Click Here ⇒


Appendix

プロフィール

marya71

Author:marya71
FC2ブログへようこそ!

最新記事

フリーエリア

アクセスカウンター

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
1431位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
SF
18位
アクセスランキングを見る>>

フリーエリア

フリーエリア

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR