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第5章 ニッポン : 2060年代

≪45≫ 帰国へ = ぼくとマーヤを乗せた宇宙船は11月11日の早朝、この島の北端にある発射場から打ち上げられた。船内は日本製の宇宙船よりやや広く、ベッドと椅子が固定されている。ダーストン星は瞬く間に見えなくなった。もう、この星に来ることはないだろう。ちょっと悲しかった。

それにしても、いい人たちだった。みんな異星人のぼくを気持ちよく受け入れ、歓迎してくれた。マーヤに淋しくないかと聞いてみると「少しは悲しい。でも私には親兄弟がいません。それより貴方と地球に行けることの方が嬉しい」という答えが返って来た。

すぐに無重力状態になったが、立ち上がったマーヤは浮き上がらずに歩いている。不思議に思っていると、マーヤがすぐ説明した。「靴底が磁石になっているんです」

ぼくもサンダルを履いて歩いてみた。少しベタつく感じで歩きにくいが、何かにつかまらなくても移動できる。サンダルを脱ぐと体が浮き上がるので、マーヤに抱き付く。来たときとは大違いで、楽しく賑やかな宇宙旅行になった。

まるで新婚旅行のよう。あっという間に1週間が過ぎた。するとマーヤが悲しそうな顔で言った。
「そろそろ貴方には、薬を飲んで眠ってもらわなければなりません」

そう、別れの挨拶に出向いたとき、病院長のブルトン博士にこう言われたのだった。
「君がこの星に来たときは、宇宙船のなかで4年間も冷凍されていた。だが冷凍だと筋肉が固まってしまうから、地上に降りたとき重力に慣れるまでが大変だ。わが国では、薬で眠る方法を採用している。動物の冬眠と同じで、これだと睡眠中も筋肉は動いていて固まらないんだ。薬は私が調合するから、安心してもらいたい。

それから胸のプレートは、下着や服には映らないようにしておいた。服の上から見えたのでは、地球に戻ってから困るだろうからね。ああ、マーヤのプレートも同じだ。だから裸にならない限り、誰にも見られないよ」
そのとき、ぼくのプレートは≪61≫に、マーヤのは≪66≫になっていた。

ぼくはいま、来たときと同じような航空自衛隊の制服を着ている。マーヤは茶色の地味なワンピース姿だ。このまま2人で手を組んで銀座通りを歩いても、誰も何とも思わないだろう。外見だけではなく、マーヤはどこから見ても中年の日本女性に変貌した。もう日本語の読み書きも万全らしい。大化の改新、徳川家康、東京オリンピックも、よく理解したという。素晴らしい。

                                (続きは来週日曜日)


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第5章 ニッポン : 2060年代

≪44≫ 結婚 = 朝からそわそわしているが、気持ちはきょうの秋空のように澄み切っている。いま、ぼくは薄黄色のローブ、隣のマーヤは薄桃色のローブに身を包み、例の完全自動車に乗っている。でも高速道路で遠くに行くわけではない。街なかを時速10キロぐらいで、ゆっくりと走っている。

道路の両側には多くの人とロボットが集まり、何か叫びながら手を振っている。この街には約1万人の人間とほぼ同数のロボットが暮らしているが、その半分以上が沿道を埋めている感じ。マーヤも興奮して言い返しているが、その意味は解らない。そう、まるで優勝したスポーツ選手の凱旋パレードのようだ。

あれから物事が、どんどん進捗した。賢人会のウラノス議長から、次々とマーヤに連絡が入る。まず地球に帰る宇宙船は11月11日に発射される。賢人会は近く「人間とロボットの結婚を正式に認める」ことになった。君たちさえよければ、その第1号として結婚しないか。9月になったらすべてを公表するから、その直後に披露のパレードをやってほしい・・・・。

この国には、宗教と呼べるものがない。昔はあったのだそうだが、いまは消滅してしまった。だから教会や寺のようなものもない。たしかに神仏の前で「健康でありますように」とか「合格しますように」と祈る必要もない社会だ。したがって結婚式もなく、新郎新婦はただ町内を巡ってお披露目するだけ。考えてみれば、親族や親しい友人だけで行う結婚式よりも、ずっとオープンで効率的かもしれない。

1時間ほどでパレードが終わると、マーヤが解説してくれた。
「みんなが喜んで興奮していました。まるで私たちが、人間とロボットの結婚に道を拓いたように受け取られたようですね。みんなが『おめでとう』『ありがとう』と祝福してくれたので、とても感激しています」

ぼくも嬉しかった。でも同時に、結婚とはなんだろうと考え込んでもいた。男性と男性、女性と女性、そして人間とロボットの結婚。大昔の人類は、子孫を残すために結婚した。だが、いまは違っている。子どもを産んでも産まなくても、結婚は結婚だ。人間の男女が結婚しても、セックスレスが少なくないという。結局、結婚は単なる一つの絆に過ぎないのだろうか。

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第5章 ニッポン : 2060年代

≪43≫ 絶対条件 = 「君の帰国は、これで本決まりじゃ。ただ1つだけ、絶対に守ってもらわなければならないことがある。それは地球に帰ったら、このダーストン星のことはいっさい口外しないこと。君がこの国で5年過ごしたことも、話してはならない。地球人にはダーストン国の存在を知られたくないからね。

君は例のダーストニウム合金を地球に持ち帰り、太陽光発電を各国に広める仕事を始める。しかし仮に君がこの約束を守らないときは、UFOがダーストニウムを破壊する光線を発射することになるだろう。すると地球は再び深刻なエネルギー不足に見舞われる。マーヤの神経系統にも異常をきたすから、十分に注意してもらいたい」

ウラノス博士の顔つきは引き締まり、声はいっそう低くなった。
――判りました。絶対に秘密を守ります。

「この5年間、君は記憶を喪失していたことにしてくれ。とにかく計画はわれわれが練り上げ、マーヤがそのすべてを記憶する。だから君は、マーヤの指示に従って行動してくれればいい」

あくる日から、マーヤはがぜん忙しくなった。病院に行って、日本の文字についての読み書き能力をインプットする。どこかで日本の女性に関する思考や習慣も、記憶装置に投入しているらしい。さらに科学院にも通って、ウラノス博士が言う“われわれが練り上げた計画”なるものを学んでいるようだ。

逆に、ぼくの方はやることがない。行き付けになった近所の居酒屋風集会所に、ひとりで出かけることが多くなった。顔見知りも増えたが、やはり言葉は通じない。それでも、みんなが歓迎してくれるから嬉しい。身振り手振りで、なんとか意思は通じるようになっている。特にガーシュおばあちゃんがいると、身振り手振りでも盛り上がった。

夜遅く、マーヤが帰ってきた。
――大変だね。疲れたろう。
「いいえ、ロボットは疲れません。貴方と大きな仕事が出来るので、とっても嬉しいんです。日本の女性のことも、ずいぶん判ってきました。貴方こそ、もう寝ないと」

このごろ、マーヤはぼくの隣で寝ることが多い。もちろん、ロボットだから本当に眠りはしない。でも、ぼくの方はマーヤの手を握っていると、深い眠りに落ちる。

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第5章 ニッポン : 2060年代

≪42≫ 驚愕の提案 = 「やあ、元気そうだね。きょうは大事な話をするから、よく聞いてくれたまえ」
ウラノス博士は開口一番、こう切り出した。白髪に丸顔、低くて柔らかい声。最初に会ったときと、ぜんぜん変わっていない。ただ変わったのは胸のプレート番号。≪12≫から≪07≫に変わっている。ああ、あれから5年もたったんだ。

「以前に『君にはやってもらいたいことがある』と言ったのを覚えているかな」
――もちろん、よく覚えています。でも何をすればいいのか、いまだに全く判りません。博士の頼みならばどんなことでもやるつもりですが。

「よろしい。君には地球に帰ってもらいたいのじゃ。そして地球の人類にも、われわれダーストン人のためにもなる仕事を始めてもらいたい」
――えっ、そんなことが、ぼくに出来るんですか。

「われわれの予測だと、地球人は再びエネルギーで大問題を惹き起こす可能性が高い。たとえば、われわれの祖先が使用済み核燃料の処理で失敗したようにな。すると地球人はまたまた脱出先の星を探して、このダーストン星を発見するかもしれない。わしらの賢人会は、そんな事態を未然に防ごうと考えたんじゃ。
君もよく知っている例のダーストニウム合金を、地球上の国に普及させる。そうすれば太陽光発電だけで、エネルギーを賄うことができ、不測の事態は起きんじゃろう」

――びっくりして、心臓が止まりそうです。なるほど、考え方はよく解りました。しかし、ぼくにそんな能力はありませんよ。また、ぼくが日本に帰っても、航空自衛隊には戻れないでしょうし、親類も友人もいません。

「大丈夫。われわれがすべて計画を練り上げる。君は指示通りに動いてくれればいいんだ。それに補佐役兼連絡係として、このマーヤを付けてあげる。君さえ決心してくれれば、あと半年の間に宇宙船を造り、マーヤを日本人の女性に改造する」

正直に言って、この提案を受け入れるのは、とても不安だった。その半面、日本のいまの様子を知りたいという気持ちも強かった。そんな心の葛藤を破ったのは、マーヤを連れて行けるという博士の発言。十分に計算したうえのひと言だったに違いない。そっとマーヤの横顔を覗き込んだが、表情に変化はなかった。

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第4章  錬 金 術 と 太 陽 光

≪41≫ 別世界? = たしかに、この国は住みやすい。だいいち働かなくても、結構な暮らしができる。おカネの心配もない。病気やケガは完全に治してくれて、100歳までの健康が保障されている。喧嘩や犯罪もない。人々は自分の好きな道を選んで、生きがいを感じているらしい。

でも、それだけに刺激というものが全くない社会でもある。最初のうちは「他人と競争しようなんて思わない」とか「現状に不満なんてない」といった人々の声を聞くと、ぼくは疑ったものだ。突如として出現した地球人に、強がりを言っているのではないか。そんな風に感じていたことは、否定できない。

ときどき、わが愛するマーヤにも聞いてみた。だがマーヤは常に「人々の言うことに嘘はないでしょう」と断言していた。このロボットと人間との関係も判りずらい。ぼくが地球で知っていたロボットは生産工場で人間の代わりをしたり、会社やホテルで受付の業務をこなしたり。まだ進化した機械に過ぎなかった。それが、ここでは人間と変わらない肢体を持ち、人間以上の知能を有し、社会では人間並みに扱われている。

だがダーストン星に5年も住み着いてみると、ぼくの考え方もは変わってきた。ここの人たちは、どうも心の底から現実を受け入れているようだ。そんな感じが次第に強くなってきた結果、最近では「それがダーストン人なのだ」と思うようになっている。この人たちは、こういう環境で生まれ育った。だから200年以上も前の競争的な人生や戦争や犯罪が多発した社会のことは、教科書でしか知らないのだ。

ところが、ぼくはつい数年前まで、実際にそういう社会に住んでいた。そのギャップは限りなく大きい。もし、ぼくがこの星にずっと住み続けるとしたら、多分そういう人生観に変わって行くのだろう。だが、どうしても理解できないことが1つある。

それはダーストン国というのは、地球とは完全に違う『別世界』なのか。それとも『地球も200年すれば、この国のように変わって行くのか』という大いなる疑問だ。この大問題は、おそらく賢人たちに聞いても判らないだろう。そうして、こんな問題に頭を悩ませている日本人が、4.2光年も離れた星で暮らしている事実を、地球上ではだれ一人として知らない。こう考えると無性に寂しくなって、思わずマーヤの手を握りしめた。

そんなとき、賢人会のウラノス議長から連絡があった。真剣な顔をしたマーヤが「重要な話をしたいので、あした来てくださいと言ってます」と告げた。

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